乳がん術後の乳房の形を整えるために、乳房再建術を受けることができます。
ここでは、小冊子『乳房を失ってしまったあなたへ 失うかもしれないあなたへ』(東邦大学大橋病院形成外科・岩平佳子著)より、乳房再建術の具体的な方法を紹介します。


掲載内容
選択にあたって
再建手術について
  1. 人工乳房を使用する方法
  2. 筋皮弁法
  3. 乳頭・乳輪の再建
  4.可能性のある合併症
乳房再建術に関するQ&A

 あなたがもし不運にも"乳ガン"と診断され、乳房にメスを入れざるを得なくなった時、あなたには乳房再建術を受けることができるという選択が得られます。乳房再建の手術を受けるかどうかはあなた自身が決めることです。それは通常の生活を送ろうという純粋な気持ちから生じます。また、乳房再建はあなた自身だけでなく家族や親しい人々に、あなたが乳ガンであったことを忘れさせるでしょう。
 あなたが失いかけていたものを乳房再建によって再び取り戻す気持ちがあれば、再建を考えて下さい。乳房再建により、あなたが病気から解放されて日常生活に復帰することが容易になることもあります。
 過去に乳房再建を行った女性たちは、
"水着や大きくカットの入ったドレスなどのお気に入りの服を着たいから。"
"パットの着用がわずらわしいから。"
"家族や友達と温泉へ出かけたい。"
"孫と一緒にお風呂に入りたい。"
などの理由で再建を行い、現実にあきらめかけていたこれらの夢を再び実現することができました。選択の第一歩は、再建手術に関してできる限り詳しい情報を得ることです。


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 乳房再建には基本的に3つの方法があります。
1.人工乳房を使用する。
2.身体の他の部分から胸部へ皮膚と脂肪、筋肉の一部を移植する。
3.1と2の併用。
 あなたが受けた乳ガン手術の大きさ、残存した組織の量、反対側の乳房の大きさ・形などがどの方法を用いるかの目安になります。またあなたの体型、職業、趣味なども方法を選択するのに重要な要素となります。いずれの方法を選択しても、さらに乳輪、乳頭の形成術を行い完成します。
 以下に、各々について説明します。

 形成外科の他の手術と同様に、乳房再建も患者さん一人一人により方法が異なります。あなたに施行された乳房切除術の種類、術後の補助療法、皮膚と筋肉の状態、乳房の大きさ、その他の要素を考慮したうえで、あなたにとって最良の方法が選ばれます。

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 患者さんが人工乳房を覆うだけの健康な大胸筋と十分な量の皮膚がある場合に用いられます。よって乳房切除術で皮膚を全く切除せず、乳腺だけをくり抜いたような場合や温存療法をおこなったケースがこの適応になります。しかし、乳ガン手術から時間がたってしまっていると皮膚が縮んでしまい、この方法では自然な感じが出ないことがあります。この方法は乳房切除術の傷跡の一部を切開し、大胸筋の下につくった空間に人工乳房を挿入します。手術は約40分で終わります。外来手術として可能です。
 また傷は最初の乳房切除術の傷跡を利用して再建が行われるので、新たな傷は生じず、切除術でできたものより目立たなくなるでしょう。
人工乳房を覆うだけの健康な大胸筋と十分な皮膚がある場合 大胸筋下に人工乳房を挿入します
 
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 大胸筋は残っているものの、反対側の乳房の大きさに合う人工乳房を覆うのに十分な皮膚がない場合には、一時的に組織拡張器(ティッシュ・エキスパンダー)が用いられます。この手術では残った組織は徐々に伸ばされていくので、反対側の乳房につり合う大きさの人工乳房が挿入可能となるだけでなく、乳房のたわんだ感じといった自然な形態が出せるという特徴があります。全身麻酔下で乳房切除術の傷跡に切開を加え、皮膚と筋肉の下に、しぼめた風船状のエキスパンダーを挿入します(エキスパンダーが乳房切除術を受けた際に挿入されることもあります)。エキスパンダーを留置した後に滅菌した少量の生理食塩水を満たします。手術には40分程度を要します。
 術後1〜3ヶ月、皮膚を引き伸ばすために1〜2週間に1回の割合で外来でさらに生理食塩水を加え、徐々にエキスパンダーを大きくします。この拡張をおこなっている間も、患者さんはほとんど日常生活に支障を来たしません。望んでいる大きさの人工乳房を覆うのに十分なまでに皮膚が伸びた後は、注入は終了しますが、さらに伸びた皮膚が後戻りしないようにエキスパンダーを3〜4ヶ月ほどそのままおいておくと、より柔らかな乳房になります。その後エキスパンダーは抜去され、人工乳房が挿入されます。
 これは一般には入院して全身麻酔下でおこないますが、わたしたちの施設ではこの程度の手術には全身麻酔といっても、乳房切除術の時のように気管に管を入れるのではなく、麻酔科の先生が点滴から入眠剤を使用し、手術中は眠っていただく方法をとっています。術後病室にお戻りになる頃には目がさめて、トイレにもご自分で行っていただけます。よって日帰りでも十分可能です。

人工乳房を覆うだけの十分な皮膚がない場合

 

1.大胸筋下にエキスパンダーを挿入します

 

2.エキスパンダーに生理食塩水を加え、徐々に皮膚を伸ばします 3.エキスパンダーにかわって人工乳房が挿入されます
 
 
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 この手術法はより根治的な手術(定型的乳房切除術)により大胸筋と広い範囲の皮膚に欠損を来たし、鎖骨下やわきの下に凹みができてしまい、人工乳房だけでは再建が不可能な場合や、大胸筋は残っていても特にわきの下や前胸部の凹みが著しく肋骨の形態が透けている方などに用いられます。
 患者さんの背中の皮膚と脂肪、筋肉を乳房切除術がおこなわれた部位に移植します。胸部の前面に新しい筋肉をつくるために、背中の広くて平たい筋肉である広背筋を用います。しかし背中の筋肉はうすく、脂肪も少ないため、たいがいの場合、乳房の膨らみには人工乳房を併用する必要があります。ドレーン(貯留液の排出用のチューブ)を手術後数日間留置します。手術には数時間を要し、約1週間〜10日間の入院が必要です。
 この手術法は胸部の乳房切除術による傷跡に加えて、背中にも傷跡を残します。これらの傷跡はなくなることは決してありませんが、たいがいブラジャーに隠れる位置におくことができ、形成外科的な特殊な縫い方によりかなり目立たなくなります。
背中の皮膚・脂肪・筋肉の一部を胸部に移動します。

胸部や背中に傷跡が残りますが、ブラジャーに隠れる位置におくことができます。

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 この手術法も定型的乳房切除術により多くの皮膚と筋肉の欠損を生じた女性や、人工乳房を使うことに抵抗のあるケースに用いられます。垂直に走る腹部の2つの筋肉(腹直筋)のうち1つまたは両方の一部(約3.5cm)を、腹部の皮膚と脂肪をつけて乳房の領域に移植します。筋肉、皮膚、そして脂肪からなる皮弁を用いて乳房の輪郭が形作られます。腹部の組織を胸部に移動することにより、胃の付近が締めつけられる感じがしばらく続くことがあります。
 この方法では、胸部の乳房切除術の傷跡に加えて、下腹部を横断する水平方向の傷跡を残します。広背筋弁皮法と同様、この傷はパンティの中に隠れますが、なくなることはありません。
 この方法はすべての方法の中でもっとも体力的な負担が大きく、出血も多量なことがあります。術前に自分の血液を採取して、それを輸血する自己輸血をおこなうことがあります。入院は最低2週間。通常の生活に戻るにはさらに1〜3カ月を要するでしょう。しかしできあがった乳房はとても柔らかく、自然なのは言うまでもありません。
腹部の組織を胸部に移動します。

腹部の筋肉・皮膚・脂肪で乳房の輪郭がつくられます
胸部の傷跡に加え、下腹部を横断する傷は残りますが、パンティの中に隠れます。

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 乳房の輪郭が再建されて数ヶ月を経てから、乳頭・乳輪の再建をおこなうことが一般的です。乳頭・乳輪を再建するためには、再建した乳房の大きさや位置が落ち着いてからがよいでしょう。
 乳頭・乳輪の再建にはさまざまな方法があります。手術には通常1時間を要します。最も一般的な方法としては反対側の乳頭・乳輪を半分移植する方法があります。ただし、この方法はこれから出産授乳の予定が考えられる方には適しません。そのような方や、健側の乳輪・乳頭を触りたくない場合は、入れ墨を用います。乳頭は新しく作られた乳輪の組織を用いるか、反対側の乳頭の一部を移植することが一般的です。乳輪・乳頭の再建手術はすでに健康保険で認められていますが、入れ墨は約20万円かかります。


■再建した乳房の大きさや位置が落ち着いてから乳頭・乳輪の再建が行われます

●"単純"人工乳房挿入法・組織拡張法 ●広背筋皮弁法 ●腹直筋皮弁法
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 すべての手術と同様に、乳房再建にも危険はあります。手術をする前に、あなたは可能性のある合併症と副作用について主治医と相談すべきです。
 異物である人工乳房に対して女性の身体が好ましくない反応を生じた場合には、合併症を来たします。人工乳房の周囲には人工物に対する自己防衛反応として被膜(カプセル)が形成されますが、約20%の患者さんがこの膜が固くなる被膜拘縮(こうしゅく)と呼ばれる問題が生じます。その被膜は"野球ボール"のように非常に硬く変形し、不快感を来たすこともあります。拘縮はマッサージにより柔らかくなり、身体に吸収されて改善されます。中には拘縮の解除のために手術が必要になる場合があります。
 他にも多くの可能性のある合併症があります。乳房の部位に感染が生じた場合には、感染がおさまるまで人工乳房は取り除かれ、その後再挿入されます。移植した皮膚の血のめぐりが悪く、大きな領域が壊死したり、または一部の皮膚や脂肪が生着しない場合もあります。特に過去にお腹に手術したことのある方、喫煙者、糖尿病、肥満者にはこれらのリスクが高いことは確かです。
 どのような種類の形成外科的な手術であっても、その最終的な結果を予測することは困難です。けれど、医師も患者さんと同様、精一杯努力し誠心誠意再建手術を行おうとしていることは忘れないで下さい。手術後、何か心配なことがあれば、必ず医師に相談して解決してゆきましょう。

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Q: 再建した乳房は手術をしていない側の乳房と同じになりますか?
A: 胸筋の下に人工乳房を挿入して再建された乳房は自然な乳房(手術していない側の乳房)と全く同じという訳にはいきませんが、服や水着を着た場合にはほとんどわからなくなり、また人と入浴しても気づかれることはまずないでしょう。再建した乳房はあまりとがらず、おそなえのお餅のように見えます。再建した乳房は自然の乳房よりは垂れ下がらないので、若々しい形をしていますが、年をとれば多少たれてくるでしょう。もちろん形成外科医は反対側の乳房に合うように再建しますが、大きさ、形、輪郭が、瓜二つとなることはまれです。しばしば手術をしていない側の乳房を修正することにより、よりバランスのとれた形になります。自然の乳房に対する手術は再建と同時か、第2回目の手術の際に行われます。その最も一般的な方法は、縮小術、豊胸術、および吊り上げ術です。また、再建術が終って数ヶ月経ってもまだあなたが不満な部分があれば小さな手術で修正は可能です。
Q: 乳房再建はどのぐらいの費用がかかりますか?(2006.12.15更新)
A: 乳房再建は美容の手術ではなく、乳房切除術後の回復に関わる矯正手術ですが、現在、これには大きなしばりがあります。ご自分の皮膚を移植して行う場合は健康保険がききます(手術点数:一期再建219,000円、二期再建:300,000円 但しこれはあくまでも手術料であり、この他に入院費、薬代、処置代などは別途かかります)。一方、人工乳房の場合、日本では未だに厚生労働省が認可しておらず、形成外科が個人の責任のもと個人輸入していることになりますので、自費になります。
人工乳房による再建に用いられるものは、エキスパンダーやシリコンバッグ、生食バッグになります。
いずれの方法を用いるかで金額は異なりますが、あなたに施行された乳房切除術の種類、 術後の補助療法、皮膚と筋肉の状態、乳房の大きさ、その他の要素を考慮したうえで、 あなたにとって最良の方法が選ばれます。もちろん、ご自身にとって何を一番大事に考え、再建術を受けられるのか、そのご希望も考慮されます。
なお、これらの費用は施設によって異なりますので、直接お問合せ下さい。
Q: 乳房切除術から乳房再建までどのくらいの期間、待てば良いのでよう?
A: 最も望ましい待ち期間に関しての定説はありません。乳房切除術の手術創がよく治癒し、皮膚が可動性と弾力性を持つことが必要ですが、そのためには3〜6ヶ月かかります。外科医によっては再建を遅らせる必要はないとする考えもあり、乳房切除術と同時に乳房再建をおこなう場合もあります。一期再建は外科医の判断によるので、まず相談してみてください。
Q: 回復にはどのくらいの期間が必要ですか?
A: 手術の大きさによりますが、ほとんどの女性は2〜3週間で日常生活に復帰できます。しかし、精力的な運動をするまでには、さらに数週間が必要です。特に腹直筋皮弁を施している場合は、3〜6ヶ月かかるという方もいらっしゃいます。
Q: 再建後も乳房の自己検診を続けるべきですか?
A: 是非とも必要です。乳房再建はガンの再発の誘発も予防もしません。再建後もあなたは定期的な身体検査と血液検査を続ける必要があります。加えて、主治医の指示によりあなたは毎月両方の乳房の自己検診をしなければなりません。
Q: 人工乳房は安全ですか?これは永久的なものですか?
A: まず人工乳房は日本の場合、未だに厚生労働省が認可しておらず、形成外科が個人の責任のもと個人輸入していることを銘記しておきます。
これまで用いられていた人工乳房はシリコンの袋にシリコンジェルの入ったものでした。これもきちんとした病院で、形成外科の専門医が、信頼できる業者から入手したものなら安全と言えます。一番新しいシリコンは「コヒーシープ」と言って、シリコン自体が液体ではなく、ちょうど「こんにゃく」とか「ぎゅうひ」を想像していただければ分かりやすいと思いますが、固体になっています。したがって万が一破れたり、穴があいてもそこからニュルニュルと染み出して、体の他の部分へ流れてしまうといった心配はありません。これに対して、中に生理食塩水を注入する生食バッグとよばれるものもあります。両者の違いは、柔らかさは圧倒的にシリコンの方が柔らかく、手ざわりも自然です。ただ、シリコンは40〜60gごとに大きさが決まっているので、反対側と同じ大きさにめぐり会える可能性は少ないと言えます。生食バッグは、生食の出し入れにより大きさの微調整が可能です。しかし、水ですから、立ったときと寝たときに水が移動して、音がしたりシワができたりする可能性があります。いずれも、安全性は今のところ問題ありませんが、"人工物"であることを忘れず、形成外科の専門医に相談することが大切です。
Q: 人工乳房がガンの再発の発見を遅らせることはありませんか?
A: 外科医と放射線診断医は身体検査と乳房撮影を用いることにより、人工乳房はガンの再発の発見に影響を与えないと考えています。再建した乳房にガンが再発した場合には皮膚に下に存在することが多く発見が容易です。


あなたがこれを読んで、もし乳房再建術を受けてみたいという気持ちになれたら形成外科の乳房再建を専門に行っている医師に相談してみてください。あなたの受けた、またこれから受ける乳房切除術とその結果に応じてあなたに最も適した方法をアドバイスしてくれるでしょう。


出典:『乳房を失ってしまったあなたへ 失うかもしれないあなたへ』(東邦大学大橋病院形成外科・岩平佳子著

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